安全の記録を回す|ヒヤリハット・教育・苦情の使い方
公開 2026年8月21日
安全に関する書類を持っている事業所は多くあります。使えている事業所は、それより少ない。
差は「集めて終わりにしていないか」です。ヒヤリハット報告も苦情処理簿も、溜めるだけなら書庫の肥やしです。集めた材料を教育に変えて、記録として残すところまでが一続きになって、はじめて回ります。
3つの記録の位置づけ
| 記録 | いつ発生するか | 義務 |
|---|---|---|
| ヒヤリハット報告 | 事故に至らなかったとき | 法令上の義務ではない |
| 苦情処理簿 | 外から指摘が来たとき | 記録と保存が求められる |
| 乗務員教育記録簿 | 指導を行ったとき | 3年間の保存が求められる |
| 事故報告書 | 事故が起きたとき | 3年間の保存が求められる |
上の3つは入口、教育記録簿は出口です。入口で集めた材料が出口に流れていないなら、どこかで止まっています。
材料は自社の中にある
安全教育がつまらなくなる原因は、教材が一般論だからです。「安全運転を心がけましょう」で人は変わりません。
自社の記録を使うと、話が具体的になります。
- ヒヤリハットが同じ交差点で3件出ている → その交差点の話をする
- 苦情が夕方の時間帯に集中している → 夕方の視認性の話をする
- 事故報告書の要因欄に「車間距離」が続いている → 車間距離の話をする
3か月分をためて並べ替えるだけで、次に話すべきことが決まります。
集まらないときにやること
ヒヤリハットが集まらない事業所は多いのですが、原因はだいたい同じです。書く量が多いか、名前を書かせているかのどちらかです。
- A4の報告用紙を1枚書かせる方式はやめる。1件1行にする
- 報告者名は任意にする。匿名でも受け付ける
- 要因の分析と対策は、報告を受けた側が埋める
運転者が書くのは「何があったか」までで十分です。ここを絞ると報告数が増えます。
苦情は匿名でも記録する
車両番号だけを伝えてくる連絡は珍しくありません。「匿名だから記録しない」という扱いはできません。申出者の欄に「匿名」と書き、車両番号と日時から運転者を特定して調査します。
調べた結果、指摘が事実と異なることもあります。 その場合も記録は残します。ドライブレコーダーで確認して問題がなかった、という記録自体が、次に同じ連絡が来たときの材料になります。
教育記録は4つが揃って記録になる
「安全運転について指導した」だけでは記録として弱いものです。
- いつ(日時)
- 誰に(受講者の氏名。全員なら人数と名簿の参照先)
- 何を(指導の内容)
- 誰が(実施者)
これに使用した資料を備考に書いておくと、後から中身を再現できます。「社内ヒヤリハット集計(4-5月)」と書いてあれば、何を話したかが分かります。
特別な指導を忘れない
計画に基づく全体教育とは別に、対象者への個別の指導があります。事故を起こした運転者、新しく雇い入れた運転者、高齢の運転者。
この実施漏れが、巡回指導での指摘として多く見られます。 全体教育の記録に混ぜて書くと、実施したかどうかが判別できません。区分の欄を分けておいてください。
四半期に一度、見返す
月次では傾向が見えません。四半期に一度、次の3つで並べ替えます。
- 場所(同じ地点が繰り返し出ていないか)
- 時間帯(早朝・夕方に偏っていないか)
- 状況(発進時・後退時・車線変更時のどれが多いか)
偏りが1つでも見つかれば、それが次の教育の題材です。
よくある質問
ヒヤリハットの記録に保存期間はありますか。
ヒヤリハット報告そのものに保存期間の定めはありません。ただし運転者への指導の記録として使う場合、その記録は3年間の保存が求められる範囲に含まれることがあります。
苦情が1件も無い場合、苦情処理簿は不要ですか。
受け付けたときに記録できる体制が必要です。件数がゼロでも様式は用意しておき、巡回指導の際に提示できるようにしてください。