標準的な運賃の使い方|自社原価と並べて交渉する
公開 2026年8月21日/更新 2026年10月3日
目次11項目
標準的な運賃は、貨物自動車運送事業法の附則第1条の3にもとづいて、国土交通大臣が告示した運賃の目安です。2020年4月24日に初めて告示され(令和2年国土交通省告示第575号)、2024年3月22日に改定されています(令和6年国土交通省告示第209号)。名前から「この額を請求できる」と読めてしまうのですが、そういう性質のものではありません。
一般に、標準的な運賃は交渉の材料として使われています。そのまま提示して通る価格表ではなく、自社の数字を説明するときの物差しとして使うものです。
効きにくい使い方
- 告示の額をそのまま提示する
- 「国が決めた額です」と説明する
- 自社の原価を出さない
効く使い方
- 自社の原価を先に出す
- 告示と並べて位置を示す
- 差の理由を説明する
ポイントはここです。荷主から見ると、告示の額は「他社にも同じ額が示されている数字」です。そのため、自社だけの事情が入っておらず、それ単体では交渉の理由になりにくいという部分があります。
標準的な運賃は価格表ではない
標準的な運賃は、車種、距離、時間などの区分ごとに額が示された目安になります。見た目は価格表そのものです。だから、そのまま使えるものだと受け取られやすくなります。
ただ、制度としての位置づけは違います。条文では、「能率的な経営の下における適正な原価及び適正な利潤」を基準にして定める運賃とされています(法附則第1条の3第1項)。国土交通省も、自社の運賃を計算して荷主と交渉するときの参考指標と説明しています。強制力のある価格ではありません。届け出た運賃で営業することも、告示と違う額で契約することもできます。
目安であることが、そのまま使いにくさになっています。「目安と違うのはなぜですか」と聞かれたときに、答えられる材料が要るためです。その材料が、自社の原価になります。
標準的な運賃は何のための数字か
標準的な運賃の目的は、条文に書かれています。運転者の労働条件を改善し、運送事業の健全な運営を確保し、貨物流通の機能を保つためとされています(法附則第1条の3第1項)。背景には、運送事業者の荷主に対する交渉力が弱く、運賃が上がりにくかったという事情があると、国土交通省は説明しています。
そこに、公的な目安が置かれました。目安があると、話の起点が変わります。「いくらまで下げられますか」から、「この水準に対して、御社はどこにいますか」という形にできます。
起点を変えるための数字だと捉えると、使いどころが見えてきます。
もうひとつの役割が、社内向けの物差しです。自社の運賃が、目安に対してどのあたりにあるか。荷主ごとに並べてみると、極端に低い取引が見えてきます。そのため、交渉の順番を決めるときに、この並びが材料になります。
標準的な運賃の前に自社の原価を出す
自社の原価は、運賃交渉の準備として最初に出しておく数字になります。原価が出ていないと、告示の額との差を説明できません。「安いと思う」という感覚だけでは、話が進みにくくなります。
運送原価計算表で拾っていく項目は、大きく3つに分かれます。
| 区分 | 含めるもの |
|---|---|
| 車両の費用 | 減価償却、車検、整備、タイヤ、保険、税 |
| 運行の費用 | 燃料、高速道路料金、消耗品 |
| 人の費用 | 賃金、法定福利費、教育、健康診断 |
このほかに、事務所の家賃や管理部門の人件費といった一般管理費が乗ります。
つまずきやすいのは、人の費用です。運転者に支払う賃金だけを見てしまうと、実際の負担より小さく出ます。社会保険料の会社負担分、有給休暇の分、教育や健康診断にかかる費用。これらも人にかかる費用になります。
もうひとつ抜けやすいのが、車両の入れ替え費用です。いま乗っている車がいつか買い替えになります。その分を毎年の費用として見ておかないと、買い替えの年だけ大きく赤字になります。
原価が出ると、1台1日あたりいくらで動いているかが分かります。この数字が、交渉の土台になります。
出し方は、細かくしすぎないほうが続きます。はじめから車両1台ごと、運行1本ごとに出そうとすると、集計だけで手が止まります。まずは全社の年間費用を車両台数で割って、1台あたりの年間費用を出す。それを稼働日数で割って、1日あたりを出す。この程度から始めるやり方が広く使われています。
粗くても、数字があると話ができます。精度を上げるのは、使い始めてからで間に合います。車種が混在している場合は、大型と中小型で分けておくと使いやすくなります。費用の構造が大きく違うためです。
一度作ってしまえば、翌年は数字を入れ替えるだけになります。最初の1回だけが手間になる作業です。
運賃と料金の違い|待機時間料・附帯業務料
運賃と料金の違いは、標準的な運賃の考え方の中で分けて示されています。運賃は、運ぶことそのものへの対価です。料金は、運ぶこと以外の作業への対価になります。
- 待機時間料
- 積込料・取卸料
- 附帯業務料(仕分け、棚入れ、横持ちなど)
- 有料道路利用料などの実費
2024年3月の改定では、待機時間料に加えて、荷役作業ごとの積込料・取卸料が新たに示されました。荷待ちと荷役の時間が合計2時間を超えた場合は5割を加算する形や、下請けに出すときの「下請け手数料」(運賃の10%を別に収受)も設定されています(国土交通省 2024年3月22日の報道発表)。
実務でよくあるのが、これらが運賃に含まれてしまっている形です。「運賃○○円」の中に、2時間の荷待ちと、手積みの作業が入っている。この場合、作業が増えても収入が変わりません。分けて請求する形にすると、作業の増減が金額に反映されるようになります。
分けることには、もうひとつ効き目があります。荷主側で、待機や附帯作業がコストとして見えるようになる部分です。見えるようになると、減らす動機が生まれます。そのため、運賃の交渉より、待機の削減のほうが話が進むことがあります。
分けて出すときは、書面の形も変えておくと伝わりやすくなります。請求書に「運賃 ○○円」の1行だけが並んでいると、中身が見えません。運賃と料金を行を分けて書くと、何にいくらかかっているかが相手にも分かります。
運送引受書の段階から分けておくと、請求のときに整えなおす手間がなくなります。引き受けた条件と請求の形がそろっている状態です。
2025年4月からは、真荷主と運送契約を結ぶときに、運送の役務と、それ以外の役務(荷役や附帯業務)の内容と対価を書面に書いて、お互いに交付することが定められています(貨物自動車運送事業法第12条)。国土交通省のQ&A(問2-3)でも、積込みや取卸しの料金は原則として運賃とは別建てにするとされています。新規の取引では、最初からこの形で出しておくのが良いです。あとから分けようとすると、値上げのように受け取られることがあります。
既存の取引で分ける場合は、合計額を変えずに内訳だけを示す段階を挟むやり方もあります。まず見えるようにして、次の交渉で水準を話す。2段構えにすると進めやすくなります。
待機時間料の請求は記録がすべて
待機時間料は、記録が無いと請求できない料金になります。「今日は2時間待ちました」と口頭で伝えても、あとから確認できない情報になります。
荷待ち時間記録簿に残しておく項目は、次のような形です。
- 到着時刻
- 荷役の開始時刻
- 荷役の終了時刻
- 出発時刻
- 待機の理由(分かる範囲で)
到着から荷役開始までが、待機時間になります。
- 1 到着 時刻を記録
- 2 待機 この間が待機時間
- 3 荷役開始 時刻を記録
- 4 荷役終了 時刻を記録
- 5 請求 記録をもとに算定
記録を取り始めると、傾向が見えてきます。特定の荷主、特定の曜日、特定の時間帯に待機が集中していることが多くなっています。
傾向が見えると、交渉の材料が具体的になります。「毎回待たされる」ではなく、「3か月で18回、平均1時間40分」という形で話せるようになります。数字で示せると、相手も社内で説明しやすくなります。
待機の記録は、改善基準告示の拘束時間にも効いてきます。待機が長い運行は、拘束時間を押し上げるためです。長時間の荷待ちが常態化している場合は、荷主勧告制度の対象になることもあります。制度の内容は荷主勧告制度とはにまとめています。
記録を取る作業そのものは、運転者に負担がかかります。そのため、書く欄を増やしすぎないほうが続きます。時刻を4つ書くだけの形にしておき、理由は分かる範囲で構わないという運用にすると、記入率が上がります。
書かれなかった日があっても、責める材料にはしないことです。責めると、書かれなくなります。数か月続けて、記入率が7割を超えてくれば材料として使えます。全件がそろっていなくても、傾向は読めます。
標準的な運賃を交渉に持っていく3つの材料
運賃交渉に持っていく材料は、3つそろえておくと形になります。
ひとつめが、自社の原価です。1台1日あたり、あるいは1運行あたりの数字にしておきます。
ふたつめが、標準的な運賃の該当区分です。自社の運行がどの区分にあたるかを確認しておきます。
みっつめが、実際の作業実績です。待機時間、附帯作業の内容と回数。記録から出てきた数字です。
- 原価自社にいくらかかっているか
- 告示公的な目安がどこにあるか
- 実績待機と作業がどれだけあるか
3つそろうと、話の形が変わります。「この運行は原価がこれだけかかっています。告示の水準はここです。現状はこの位置にあります。加えて、待機がこれだけ発生しています。」
この並べ方だと、相手が反論する対象が数字になります。そのため、感覚のやり取りにならずに済みます。一度で決まらなくても構いません。数字を出したという事実が、次の交渉の起点になります。
運送を断る判断も原価から出る
運送を断る判断も、原価が出ていればできるようになります。すべての仕事を受ける必要はありません。原価を下回る運行を続けると、走るほど資金が減ることになります。
判断の基準は、事業所ごとに変わります。車両に余裕がある時期なら、原価を少し下回っても受ける意味があります。固定費は動いていないためです。逆に、車両も人も埋まっている時期に安い仕事を受けると、条件のよい仕事を断ることになります。
断る判断も、原価が出ていてはじめてできるという部分です。感覚で断ると、あとで「本当は受けられたのでは」という迷いが残ります。数字で断ると、判断が残ります。
標準的な運賃を使ったあとに続けること
運賃を上げたあとも、原価と実績は取り続けるのが良いです。燃料費も、賃金も、車両価格も動きます。一度出した原価は、時間が経つと合わなくなります。
半年から1年に一度、数字を更新しておくと、次の交渉の準備ができている状態になります。そのうえ、荷主側の担当者が替わったときも、更新した数字があるとやり直しになりません。
記録の面では、荷待ちの記録を止めないことが大事な部分になります。上がったから記録をやめてしまうと、次に交渉するときにまた3か月分を集めるところから始まります。日々の記録が、そのまま次の材料になる。この形になっていると、交渉が特別な作業ではなくなってきます。
なお、標準的な運賃は改定されることがあり、この先は「適正原価」という制度に切り替わる予定です(下の「最近の動き」の節で整理しています)。自社が使う区分と最新の額は、国土交通省や所管の運輸支局が示す資料で確認しておくのが確実です。
交渉は、一度きりの場面ではありません。原価を出し、記録を取り、年に一度見直す。この繰り返しが仕組みになっていると、担当者が替わっても続いていきます。続けている会社と、その都度考える会社とでは、数年で差が出てきます。
数字を持っている状態は、値上げのためだけに効くものではありません。どの仕事を続けるか、どの車両を入れ替えるか、人を増やせるか。経営の判断のたびに、同じ数字を使うことになります。
原価計算は、交渉の準備というより、会社の状態を知るための作業だと捉えておくと続けやすくなります。
標準的な運賃にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
標準的な運賃は、2024年の改定と2025年の法改正で、位置づけが大きく動いています。「いまの額」と「この先の制度」は分けて確かめるのが安全です。
| 時期 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2020年4月24日 | 標準的な運賃が初めて告示された(令和2年国土交通省告示第575号) | 国土交通省「標準的な運賃」のページ、2024年3月22日 報道発表 |
| 2024年3月22日 | 運賃表を改定し、平均約8%の引上げ。燃料費の前提を120円に変更。積込料・取卸料、荷待ちと荷役が合計2時間を超えたときの5割加算、下請け手数料(運賃の10%)、個建運賃などを設定 | 令和6年国土交通省告示第209号、同報道発表 |
| 2024年6月1日 | 改正した標準運送約款を施行。運送と運送以外の業務を別の章に分け、対価を収受する旨を明記 | 同報道発表 |
| 2025年4月1日 | 真荷主との運送契約で、運送の役務と運送以外の役務の対価を書面に分けて書き、相互に交付する義務が始まった | 法第12条、改正貨物自動車運送事業法Q&A |
| 2025年6月11日 | トラック適正化2法が公布された。国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金の制限は、公布から3年以内に施行予定 | 同Q&A 問1-2 |
| 2026年7月 | 国土交通省が適正原価の設定に向けた論点を提示。資料では、附則第1条の3(標準的な運賃)は適正原価制度の導入により廃止と整理されている | 国土交通省 物流・自動車局 資料4(令和8年7月) |
標準的な運賃は、2026年10月時点ではまだ廃止されていません。告示は効力を持っています。同じ資料では、標準的な運賃は利潤を含む「荷主等から収受すべき運賃」、適正原価は利潤を含まない原価と説明されています。そのため、適正原価が始まったあとも、自社の原価に利潤を乗せて説明するという使い方そのものは変わらないと考えられます。
国土交通省の資料3(令和8年7月)では、令和6年度の実態調査で、運賃交渉をしている事業者が全体の74%、標準的な運賃と同じ水準を概ね収受できている事業者が53%とされています。
出典:
- 貨物自動車運送事業法(e-Gov法令検索)
- 国土交通省「標準的な運賃」の告示・資料のページ
- 国土交通省「新たなトラックの標準的運賃を告示しました」(2024年3月22日)
- 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法 Q&A」(令和8年3月31日時点)
- 国土交通省 資料3「標準的運賃について」(令和8年7月)
- 国土交通省 資料4「適正原価の設定に向けた論点提示」(令和8年7月)
確認日は2026年10月3日です。自社の区分の額や届出の扱いは、所管の運輸支局(輸送部門)で確かめられます。
標準的な運賃に出てくる用語
標準的な運賃の資料には、似た名前の制度や、運賃と料金の言葉が並びます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 標準的な運賃 | 能率的な経営の下における適正な原価と適正な利潤を基準に、国土交通大臣が定めて告示する運賃 | 法附則第1条の3 |
| 標準運賃・標準料金 | 特定の地域で運賃が著しく上がる・下がるおそれがあるときに、期間を定めて定めるもの。標準的な運賃とは別の制度 | 法第63条 |
| 距離制運賃・時間制運賃 | 走る距離で決める運賃と、4時間制・8時間制など使う時間で決める運賃。車種と地方運輸局ごとに額が示されている | 国土交通省 資料3 |
| 待機時間料 | 荷待ちの時間に対する料金。30分を超えるごとに金額が設定されている | 国土交通省 資料3 |
| 積込料・取卸料 | 積込み・取卸しの作業に対する料金。2024年の改定で加わった | 2024年3月22日 報道発表 |
| 下請け手数料 | 下請けに発注するときの手数料。運賃の10%を別に収受する形 | 同上 |
| 適正原価 | 法令に則って事業を運営するために必要な原価。利潤を含まない。公布から3年以内に施行予定 | 改正後の法第9条の2、国土交通省 資料4 |
用語でいちばん混同されやすいのが、標準的な運賃と、第63条の標準運賃です。名前は似ていますが、条文も目的も別のものです。検索や社内の資料で取り違えないようにしておくと安心です。
標準的な運賃と一緒に押さえておきたいこと
標準的な運賃の時間制では、待機と荷役が運賃に入っている
標準的な運賃の時間制運賃は、その時間内であれば待機時間料や積込料・取卸料を含む形になっていると、国土交通省のQ&A(問2-4)で説明されています。時間制で契約するときは、荷役を別建てにしなくても構いません。ただし、積込み・取卸しが発生することは、交付する書面に書いておく必要があるとされています。距離制と時間制で、料金の別建ての考え方が違う部分です。
荷待ちの記録は、業務記録の義務でもある
荷主の都合で30分以上待機したときは、業務記録に荷待ち時間などを記録することが定められています(貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条)。2025年4月1日からは、この記録の対象が、それまでの車両総重量8トン以上などの車両から全車両に広がりました(国土交通省のリーフレット)。運賃交渉のための荷待ちの記録と、法令の業務記録を1つにそろえておくと、書く手間が二重になりません。
労務費の説明には、公表された資料が使える
内閣官房と公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月)は、発注者が説明や資料を求める場合は公表資料とすることを、発注者の行動の1つに挙げています(国土交通省 資料3に掲載)。標準的な運賃も、国が公表している資料です。自社の原価とあわせて出すと、説明の根拠をそろえやすくなります。

よくある質問
標準的な運賃はどこで見られますか。
国土交通省が告示・公表しています。距離制・時間制の区分や地方運輸局ごとの表があり、現在の額は2024年3月22日の告示(令和6年国土交通省告示第209号)によるものです。最新版は国土交通省の公表資料でご確認ください。
荷主が応じない場合はどうなりますか。
運賃は当事者間の契約で決まるため、告示があっても強制はできません。ただし、法令違反の原因となるおそれのある行為を荷主がしている場合には、国土交通大臣が働きかけ・要請・勧告を行う仕組みがあります(貨物自動車運送事業法附則第1条の2)。
標準的な運賃は廃止されるのですか。
2025年の法改正で、国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金を制限する制度が、公布(2025年6月11日)から3年以内に始まる予定です。国土交通省の資料(令和8年7月)では、標準的な運賃の規定は適正原価制度の導入により廃止と整理されています。2026年10月時点では、標準的な運賃の告示は効力を持っています。